ラストにかけての見事な伏線の回収、最後の原稿にて感じられる恐怖が心地良くも気味の悪い読後感を得られるホラーミステリー。
今回は、ホラーとミステリーのバランス感覚が素晴らしく、第17回「ミステリーズ!新人賞」を受賞したホラーミステリー小説『影踏亭の怪談』を紹介していきます。
『影踏亭の怪談』大島清昭

『影踏亭の怪談』は2021年8月に東京創元社より発売、その後2023年6月に文庫が発売されました。
本作は主人公である怪談作家「呻木叫子(うめききょうこ)」が、タイトルにもなっている「影踏亭の怪談」を始め、様々な事件を解決していく短編集となっています。
著者の大島清昭さんは幽霊、妖怪に関して論考を発表されており、その知見をミステリー小説に落とし込まれていることが特徴の作家さんですね。
あらすじ
僕の姉は実話怪談作家だ。本名にちなんだ「呻木叫子」というふざけた筆名で、民俗学でのフィールドワークの経験を生かしたルポルタージュ形式の作品を発表している。ある日姉の自宅を訪ねた僕は、密室の中で両瞼を己の髪で縫い合わされて昏睡する姉を発見する。この怪現象は、取材中だった旅館〈K亭〉に出没する霊と関連しているのか? 調査のため〈K亭〉こと影踏亭を訪れた僕は、深夜に発生した奇妙な密室殺人の第一発見者となってしまう――第十七回ミステリーズ!新人賞受賞作ほか全四編を収録する、怪談×ミステリの最前線。
Amazon商品ページより引用
読感

『影踏亭の怪談』を読んでみて、ラストにかけての怒涛の伏線回収はミステリー小説が読みたくて本を開いた私にとっては満足感が高かったですね。
短編集なので、最初の一遍を読み終わったとき「こんな感じかー」と期待が薄くなってしまったんですが、次の短編へと進んでいくたびに引き込まれていく感覚がありました。
様々な事件を経て解明される”狂気の末”へと足を踏み入れた主人公に待ち受ける最後は、伏線回収の気持ち良さとホラーの気持ち悪さを兼ね備えた読後感を味わえます。

また本作は、怪談作家として書かれた原稿の章、実際に物語が展開する現実の章で分かれた構成が面白いですね。
物語のヒントとなる噂話について書かれていたり、事象を客観的な視点と登場人物の主観的な視点で読み解けるような構成となっており秀逸だと感じました。
ただ本作はミステリーとして事件を解決することが主題ではなく、怪奇現象が発生する背景を調べるついでに事件も解決していく物語。
そのため推理パートは、その他の本格ミステリーなどと比べると弱く、ミステリー好きな方には物足りなさを感じる部分もあるかもしれません。
『影踏亭の怪談』大島清昭|まとめ

気持ち良くも、気持ちの悪い読後感は素晴らしいのひと言。
ミステリー好きが読んでも満足できますし、ホラー小説としてもしっかりと怖い内容になっています。
ミステリー要素とホラー要素のバランスが良く、ちょっと怖い話も読みたいけど、基本はミステリー小説しか読まない方にはグッと刺さる小説でしょう。
2024年7月に本作の続きとなる『バラバラ屋敷の怪談』も発売されており、私も文庫化を待って読みたいと思います。
それでは、お疲れ様でした。