キャッチーなあらすじは数あれど、ここまで興味を引かれるあらすじは無いでしょう。
今回は、無重力空間で発見された死体は事故か、自殺か、はたまた他殺なのか? 宇宙に浮かぶホテルという異色のクローズド・サークルを舞台としたSFミステリー『星くずの殺人』を紹介していきます。
『星くずの殺人』桃野雑派

講談社より2023年2月に単行本が刊行、その後2025年2月に同社より文庫本が刊行されている本作。
著者の桃野雑派さんは、2021年に『老虎残夢』(講談社)にて第67回江戸川乱歩賞を受賞している新進気鋭のミステリー作家です。
あらすじ
完全民間宇宙旅行のモニターツアーで、念願の宇宙ホテル『星くず』についた途端見つかった死体。それも無重力空間で首吊り状態だった。添乗員の土師(はせ)穂稀(ほまれ)は、会社の指示に従いツアーの続行を決めるが――。
Amazon商品ページより引用
一癖も二癖もある乗客、失われる通信設備、逃げ出すホテルスタッフ。さらには第二の殺人まで起きてしまう。帰還を試みようとすると、地上からあるメッセージが届き、それすら困難に。『星くず』は宇宙に漂う巨大密室と化したのだった。
読感

まず特筆すべきは、どうやったって気になってしまうキャッチーなあらすじ。
ミステリー小説として読む私たちは、“無重力空間で発見された首吊り死体”なんて他殺以外に無いと予想が付きます。しかし、作中の登場人物には断定はできません。なんなら他殺であって欲しくない、事故であって欲しいとすら考えるでしょう。
この不可解な出来事が、上手く登場人物たちの希望的観測を操り、物語が混沌へと進んでいく妙が素晴らしいフックだと感じられました。
また読み進めていくと、恐らく大体の仕掛けは推察できる内容ですが、そこはSF要素も入った作品なだけあり大胆に、そして大掛かりに仕掛けられており満足。SFミステリーとしては非常に楽しめる作品に仕上がっています。
読み進めていく中で、少し引っ掛かったのが表紙に描かれた女子高生キャラクターの作中での活躍ぶり、そしてラストにかけての間延びしたアクションシーンでしょうか。
一癖も二癖もある登場人物の中でも、一際異彩を放つ女子高生キャラクターの活躍が少なかったのは「あれっ?」と思わずにはいられません。表紙もメインのように描かれていますしね。
またあらすじが強烈なだけに、随所に間延び感のある展開がありエンタメとしては楽しめるものの、ミステリー小説としては軽くなってしまっているような気もしました。
ただラストのセリフは、当たり前のことながらもスッと爽やかさを感じる一文であり、読了後は満足感を感じられて良かったですね。
『星くずの殺人』桃野雑派|まとめ
ここまで、素晴らしいあらすじに興味を引かれずにはいられないSFミステリー『星くずの殺人』を紹介してきました。
読み終えた後も、やはりプロットが本当に秀逸だなと感じられます。強烈なフックを活かして作中では、開発段階である宇宙ホテル「星くず」という舞台で悩み、希望、野望を抱く登場人物を上手く動かしています。
気になった方は、ラスト一文にかけての壮大な前振りをぜひ読み込んでみてはいかがでしょうか?
それでは、お疲れ様でした。