緊迫感のある物語に引きずり込まれ、ラストには息をするのも忘れてしまうくらいの衝撃が味わえる至極のミステリー。
今回は、数多のミステリーランキングに名を連ね、中でも「週刊文春ミステリーベスト10」と「MRC大賞2022」をダブル受賞したミステリー小説『方舟』を紹介していきます。
『方舟』夕木春央

『方舟』は、2022年9月に講談社より発売、その後2024年8月に文庫本が発売されました。
著者の夕木春央さんは、2019年に「絞首商会の後継人」で第60回メフィスト賞を受賞、同年に改題した『絞首商會』(講談社)で作家デビューしています。
デビュー後、3作目となる『方舟』では多くのタイトルで受賞、ノミネートしたことから、今後のミステリー小説界を支える存在といっても過言ではないでしょう。
あらすじ
友人と従兄と山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った家族と地下建築「方舟」で夜を過ごすことになった。翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれ、水が流入しはじめた。
Amazon商品ページより引用
いずれ「方舟」は水没する。そんな矢先に殺人が起こった。だれか一人を犠牲にすれば脱出できる。タイムリミットまでおよそ1週間。
生贄には、その犯人がなるべきだ。――犯人以外の全員が、そう思った。
読感

有栖川有栖さんが「この衝撃は一生もの」と仰っていた本作、間違いなく人生で読んできた小説の中でもトップクラスに衝撃を受けるラストでした。
「方舟」と名付けられた地下建築に閉じ込められた男女9人が、脱出するための生贄として殺人犯を探すという本作。
時にミステリー小説は、登場人物全員の行動にすべて理由があり、感情的なものが無さすぎるあまり現実的でないという意見もあります。
本作の舞台設定を例にすれば、事故に遭遇しパニックになるのは必然であり、理論的な行動よりも感情的な行動をしてしまうのが現実的でしょう。
細かいことはその場のノリ、考えてもわからない動機は自供でOK、万事最後に解決するならちょっとした矛盾には目を瞑るというのが本作を読んでいくと感じられます。
『方舟』は、まさにミステリー小説が好きな人間が読むと、所々で「あれ? これでいいの?」と思わせる部分があるんですよね。
特に犯人を追及した際の”動機”については、薄っぺらいなという感想しか出ないようなもの。

それでは、そんな『方舟』がなぜミステリー小説として、多くのタイトルを受賞しノミネートしているかについてなんですが、答えはすべてエピローグに収束します。
本作のエピローグで告白される”動機”は、今までの疑問や不満を払拭してしまう理路整然としたものであり、作品の情景を思い描きながら読む衝撃で息苦しさすら感じるほど。
犯人はなぜ殺人を犯し、なぜそのような行動をしたのか、読み終わったあとに本を閉じて表紙のタイトルを眺めながら「やられた!」と唸ってしまう素晴らしい作品でした。
『方舟』夕木春央|まとめ
エピローグの衝撃は文句なく素晴らしいのひと言。
それでいて物語の進行は緊迫感もあり、かなり読み応えがあります。
どんでん返し系が好きなら絶対に読んでほしい作品ですし、ぜひエピローグで告白される”動機”を体験してほしいですね。
私は著者の夕木春央さんの他作品を読んでいないので、これを機に読もうと思いました。
気になった方はぜひ『方舟』を手にとって見てはいかがでしょうか?